口腔内外への温度提示による食感・味覚の認知変化に関する研究
Vision
食体験を情報技術や認知科学の知見によって拡張・支援する種々の取り組みでは,食事に対して視覚や聴覚によって食体験を拡張する試みが主流ですが,食器の温度による味覚や食体験への影響についてはこれまで検討されていませんでした.
本プロジェクトでは,温度を自在に制御できる様々な食器型デバイスを開発し,実験を行うことで,味覚や食体験に対する影響の解明を目指しています.得られた知見をもとに,動的に食器の温度を変化させることで,味覚の変化や食体験の向上,あるいは今までにない新たな食体験の創出を目指しています.
口腔内への温度提示と食品の温度が食体験と味覚に与える影響
口腔内への温度提示と食品の温度による食体験の向上や味覚の変化を調査することを目的とし,実験を実施しました.実験は,3状態の温度(加温・冷却・常温)の食品を口にする際に,食品の温度とは異なる温度のスプーンを使用することで,これらの温度の違いによる食体験や味覚の変化を評価しました.
温度を変化させたスプーンの上に食品を乗せると,食品自体の温度が変わってしまいます.そこで実験では,お湯や冷水を用いて温度を変化させ,下唇と舌(口腔内)に温度を提示するスプーンの上に,断熱効果のある別のスプーンを重ね,その上に食品を乗せました.この手法を用いることで,スプーンの底部と食品で別々の温度を提示できます.この温度の違いによる食体験や味覚の変化を調査しました.
実験の結果,スプーンと食品の温度によって,「のど越し」「おいしさ」「心地よさ」が変化し,口腔内への温度提示によって「甘味」の感じ方が変化することが明らかになりました1.

ThermoTumbler
特に飲料の摂取において,飲料を変化させることなく,下唇周辺への温度提示によって,「口中香」「後味」「味の濃さ」「のど越し」「おいしさ」「心地よさ」といった食体験や味覚に影響を与える方法として,ThermoTumblerを提案しました.
ThermoTumblerでは,下唇周辺への温度提示を実現するために,ペルチェ素子やヒートパイプ等を利用して飲み口の温度制御を実現しました.
ThermoTumblerを用いて,下唇周辺への温度提示による食体験や味覚の変化を調査しました.評価実験の結果,提示温度に応じて実験参加者の感じる飲料の「温度」「のど越し」「おいしさ」「心地よさ」が変化することが明らかになりました2.

発表情報
- 上堀まい,伊藤弘大,藤田和之,伊藤雄一:口腔内への温度提示と食品の温度が食体験と味覚に与える影響,感性工学会論文誌(掲載予定),2023.
- 上堀まい,伊藤弘大,伊藤雄一:ThermoTumbler: 下唇周辺への温度提示による飲料の食体験と味覚変化の実現,インタラクション2023論文集,INT23003,pp. 21-30,2023.