
コンピュータ技術の発達に伴い、コンピュータはその用途を大きく変化させています。一般的なコンピュータと人との関係性に注目してみると、現在のコンピュータは、メールのチェックや文章の作成、ウェブブラウジングのような、コンピュータ内に存在する様々なタスクを、ディスプレイやキーボード・マウスといったレガシーなデバイスを用いてこなすのが主たる目的であり、操作の主体はあくまでも人間側にあります。これがいわゆるヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)であると言えるでしょう。
一方で、小型センサが容易にネットに繋がるようになるIoT技術の進展により、コンピュータがレガシーなデバイスだけではなく、この世界、さらには人を知るための感覚器を手に入れつつあります。また、AIや機械学習技術の進歩によって、センサで得られた情報を統合し、理解する環境が整ってきました。そして、視覚や聴覚だけではなく、触覚や嗅覚といった人間の五感を刺激するディスプレイ装置の登場により、コンピュータが人に寄り添い、人を支援することが可能になりつつあります。
つまり操作の主体が人からコンピュータに変わるパラダイムシフトが起こりつつあるのです。この操作の主体がコンピュータにあり、人の状態や状況を認識し、人を支援する技術をコンピュータヒューマンインタラクション(CHI)と呼びます。本研究室の立ち上げにあたり、本研究室ではコンピュータヒューマンインタラクション技術の実現を目指すことからCHILab。と名付けることとしました。
他にもこのような人を動かす技術の一つとして、バーチャルリアリティ(VR)やオーグメンテッドリアリティ(AR)技術があり、これらを総してXRと呼びます。また「X」にはeXperienceが含まれ、これら技術は見聞きするだけではなく「体験」が重要であることも示唆しています。さらに「X」はクロスさせるという意味も持ち、我々の研究室では、人とコンピュータをクロスさせるだけではなく、現実空間と仮想空間をクロスさせたり、さらには様々な感覚や情報をクロスさせたりすることで新しい情報テクノロジー的知見を得ようとしています。
そこで本研究室の表記を「χLab.」としました。これは、CHIは「カイ」とも発音すること、またギリシャ文字の「χ」はラテン文字(アルファベット)の「X」の由来であるからです。学生の皆さんには是非とも我々とともに、コンピュータと人との新しい共生環境を紡ぐ研究を推進してもらいたいと期待しています。